米澤穂信『追想五断章』
米澤穂信『追想五断章』(集英社文庫、2012年4月)を読みました。
米澤穂信、久々に読みました。好きな作家なので、文庫が出たら買う気ではいたのですが、あとにしているうちにだいぶ時間が経っておりました。
主人公自身とその周囲、さらに時代設定と、重層的に暗さを醸し出し、どんどん不穏に展開していくストーリー。今作は『犬はどこだ』『ボトルネック』の米澤穂信です。
謎解きそのものも面白かったですが、モラトリアムを終える芳光の姿が痛々しい。
彼の周囲には、彼に対する消極的な拒否感が渦巻いているように見えます。まずはゼミ、就活など現実と向き合ってく笙子。次に芳光の暗い先行きを映すような叔父。
そして自分の立ち位置の打破という秘かな期待から依頼に打ち込んでいく芳光を、諦観の中で迎える依頼主。
彼が東京に来て手にしたかったであろうものを何も手に入れられず、誰ともいられず、ただ立ち尽くす。
そういう意味では彼のモラトリアムは、ありきたりな結末を持つものではなく、いつのまにか本人も気づかずデッドラインを過ぎてしまった結末を持たないものでした。
あまり浮かない気分で日々を過ごしている今の自分に重ねられる部分が多く、つらく感じる部分もありましたが、これもまた小説の醍醐味ですね。
次は何か気が晴れるものを読みます。
- 作者: 米澤穂信
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2012/04/20
- メディア: 文庫
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